大原で感じたこと
先日、大原に立ち寄りました。紅葉の季節が過ぎ去り、三千院は雪模様の空に包まれ、深い静寂が広がっていました。人影もまばらなこの地で過ごす時間は、非日常的な感覚をもたらします。その静けさの中で、悠久の歴史に思いを馳せながら、現代の営みと対比して物事を考えることができました。
大原は仏教音楽「声明」の発祥の地として知られ、その歴史は1200年にも及びます。声明の美しい響きと独特の音階は、時代とともに浄瑠璃や雅楽、さらには現代の日本音楽へと受け継がれてきました。大原は1200年という長い歴史の中で、戦乱や政争などの環境の変化に翻弄されてきましたが、現在も三千院・勝林院・来迎院といった寺院には、その思想や声明の普及に対する揺るぎない信念が守られていることが感じられます。形を変えつつも、その根底に流れる変わらぬ価値が、今もなお息づいていることに、1200年に及ぶ承継の尊さを思わずにはいられません。
環境の変化に応じて、「変わりゆくもの」と「変わらないもの」
この「変わりゆくもの」と「変わらないもの」の調和は、企業経営にも通じるものがあります。たとえば、先日、カンブリア宮殿で特集された「珈琲館」の再起の物語も、同じテーマを私たちに教えてくれます。
カフェ業界が競争過多の状況にある中で、経営難に追い込まれた珈琲館は譲渡を繰り返しながらも、最終的には「誰に、何を」というマーケティングミックスの基本に立ち返ることで、V字回復を遂げました。その戦略の中核は、食事メニューの見直しによる新たな市場ポジションの確立でした。しかし、どれほどメニューを刷新しても、変わらないものが一つありました。それが、「一杯のコーヒーに心をこめて」というスローガンです。
このスローガンをさらに追求し、他店にはない「その場で焙煎する」という一見非効率的ともいえる戦術を採用しています。このこだわりこそが、珈琲館の揺るぎない信念を象徴するものであり、他店との差別化を実現する原動力になっています。
大原が語りかける「変わりゆくもの」と「変えないもの」または「変えるべきでないもの」のバランス。この調和が企業経営の持続的成長においても普遍的な真理であると考えます。
時代に応じた進化を恐れず受け入れる一方で、企業の存在意義を守り抜く姿勢。この二つを見極め、いかに統合していくかが、経営者としての私たちに求められる挑戦ではないでしょうか。
変わりゆく時代の中で求められる意思決定の軸
企業経営において、「変わりゆくもの」と「変わらないもの」を見極めるには、何を基準に意思決定を行うべきでしょうか。一つの軸として考えられるのは、顧客や社会が求める「価値」に焦点を当てることではないでしょうか。環境が変わる中で顧客のニーズや期待は進化し続けますが、企業の使命や提供すべき価値が明確であれば、変化の中でも一貫性を保つことができます。
たとえば、珈琲館の「一杯のコーヒーに心をこめて」というスローガンは、顧客に感動を与える価値そのものを象徴しています。このスローガンを軸にしながら、時代に合わせて食事メニューの見直しや焙煎方法の改良を行った結果、顧客に対して新たな価値を提供することができたのです。経営者として、このように「変化」と「不変」を統合する軸を明確にすることが求められます。
実践例から考える「変化」と「不変」のバランス
もう一つの視点として、企業内部の組織文化や運営方針に目を向けることが挙げられます。外部環境が変化しても、組織としての強みを維持しながら柔軟に対応するためには、社員や関係者全体で共有される「変わらない価値観」が重要です。この価値観があれば、どのような挑戦に直面しても、組織は同じ方向を向いて進むことができます。
具体例として、環境の変化に対応する際に考慮すべきポイントを以下のように整理することができます。
・変化に対応する柔軟性を持つ領域
製品やサービス、マーケティング戦略、テクノロジーなど、時代や顧客ニーズに合わせて変化させる必要のある部分。
・守るべき不変の価値
企業のミッション、ビジョン、バリュー、ブランドの核となる部分。これが揺らぐと、顧客や社会の信頼を失うリスクが高まります。
個人と組織の成長を統合する視点
最後に、経営者やリーダーとして、このテーマを自分自身の成長にどう結び付けるかを考えてみましょう。時代の変化に対応し、企業としての不変の価値を守り抜くには、リーダー自身が柔軟でありながらも、揺るぎない信念を持ち続ける必要があります。経営者自身が日々の意思決定や行動の中で具体的に実践し、示していくべきものです。
変わりゆく時代の中でリーダーが自己成長を続け、周囲にポジティブな影響を与えることこそ、組織全体の持続可能な成長につながります。
未来を見据えた選択を
歴史ある大原の地や珈琲館の再起の物語が教えてくれるのは、変わりゆく時代の中でいかに柔軟に適応しつつも、本質的な価値を守り抜くことが重要かということです。経営においても、変化を恐れず挑戦する勇気と、揺るぎない信念を持ち続ける覚悟が必要です。
私たちは、常に「変わるべきもの」と「変えてはいけないもの」を問い続けることで、新しい未来を創り出すことができます。目の前の変化に惑わされることなく、自分たちの信じる価値を軸に、次の一歩を踏み出しましょう。その歩みが、きっと未来に続く確かな道となるはずです。@京都大原
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