これは高齢の母とツバメの子どもが生活を共にした、人間と野鳥の愛の物語である。
野鳥を飼育することは法律で禁止されている。そのことは理解している。しかしながら、どうしても助けてあげたいというのが人情というもの。保護という観点からカラスに襲われたツバメの子どもを助けたのであった。
ある日、近所の家の玄関にある、ツバメの巣がカラスの襲撃を受けた。カラスとツバメの声が物々しく、外を覗くと戦慄の光景が繰り広げられていた。親ツバメの必至の応戦も虚しく、カラスはツバメの巣にへばりついていた。非情な現実が目に入る。
巣から下に落ちて、玄関前に逃げのびた、子ツバメがいた。母は飛びかかろうとするカラスを追い払い、その子を保護したのだ。その子は巣立ち前の大きさに育っていたが、カラスの襲撃により片方の羽が少し怪我をしているようだ。
母は葛藤した。自然の生き物であるが自由に飛び立てない、このツバメをこのままにすると、絶対にカラスにやられる。ならば、私が飛び立てるようになるまで面倒を見てあげようか。いや、人の手でこの子を育てつことはできない。
彼女のとった行動は「自分が見張る」であった。蓋のない籠にその子を入れて、玄関前に置く。そうすると親鳥が餌を運んできてくれるかもしれない。それとカラスが来たら追い払うことができる。そう思ったのだ。
自由に飛べない子ツバメ、その子の名はいつしか「つば九郎」と呼ばれるようになった。
籠の淵に、ちょこんととまる、つば九郎の姿はなんとも愛らしい。それを玄関に座って眺めている母もなんとも愛らしい。そして我が子に無事餌を運ぶ親ツバメ、なんとも勇ましいですね。自然界の尊さを感じます。
日が暮れると母は、つば九郎を家の中に入れて生活を共にします。「餌食べれてよかったなあ」「早く飛べるようになれよ」とつば九郎にたくさん話しかけています。事情の知らない人が見ると、心配になる光景です笑。が彼女の気持ちは親になっていますので安心。彼女の声に反応するかのように、つば九郎も愛らしい声で鳴くのです。水を飲まそうと手を近づけると、インコのようにとまります。まあ、短い時間でもそりゃ情が湧くと思います。
一睡もせず、日の出とともに、つば九郎を玄関に出すと、待っていたかのように親鳥が朝ごはんを運んで口移しをします。親鳥が飛んでくると、つば九郎もチュンチュンと嬉しそうです。羽を動かす頻度もだんだん多くスムースになってきております。母と親鳥の二人三脚です。
そんな日々を過ごし、3日目のお昼、お別れの時がきました。
その日の朝、母は予感していたそうです。いつものようにつば九郎をのせた籠を玄関前に置くと、羽を広げて飛ぶ練習をしたそうです。2メートルくらいで落ちて、また籠に戻ったようです笑 親鳥は何度も飛び方を教えているように、つば九郎の上を巡回しています。その光景を見た母は今日でお別れかな、飛び立つのかなと思ったようです。
母の予測どおり、その時は突然やってきました。母が見守る中、親ツバメと一緒に飛び立っていったようです。
母からLINEが来ました。「やっと今日から寝れるわー」と。翌日の朝、鳥の声が聞こえると、窓を開けてつば九郎を探す母がいました。不思議なもので、電線に止まっていたのはツバメでした。こちらを見ていましたね。それはつば九郎かどうか…
どうか、しっかりと飛んでいますように。カラスにやらていませんように。
母の願いが叶いますように。つば九郎、母のもとに来てくれてありがとう!
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